自由な働き方!裁量のある働き方!働き方改革として歓迎されやすいフレックスタイム制度ですが、起業して間もないスタートアップ企業はフレックスタイム制を採用してはいけません。その理由はなぜでしょうか?
そして、スタートアップ企業に最適なのは、結局は日本的な労務管理なのです。フレックスタイムがダメなのではなく、フレックスタイム制度を採用しても成果を出してくれる優秀な人材を雇うことがとても難しいのです。
自由な会社は経営リスクだらけ!
ブラック企業から抜け出していざ独立、あなたは経営者として自分の会社を持つことができました。
事業も軌道に乗りそうだし、やりたいこと・やらねばならないことが山ほどある!自分一人だけでは手が足りないな、よし、人を雇おう。人を雇って組織化しよう。
どんな働き方のできる会社にしようかな、会社の制度は…在籍していたブラック企業みたいながんじがらめの制度にしないぞ!
例えばフレックスタイム制にして、自由に働いてもらおう!
…と、自由な制度の会社を作りたくなりますが、これは陥りやすい罠。気をつけたいポイントです。
ブラック企業出身者は特に気をつけて
ブラック企業での経験は、強いトラウマになっていると思います。
長時間勤務なのに、細かい時間管理を求められ、休日もろくに取れず、有給休暇は消滅していくだけ…。
起業するなら絶対ホワイトにする、フレックスタイムにして、最低保証付きの成果報酬にして、自由に仕事が出来て・・・Googleやfacebookのような自由で裁量のある会社にするんだ!
しかし、起業したあなたがこういう自由な企業風土を作ろうとすると、だいたい失敗します。
なぜ?自由で裁量のある制度で、のびのび働いてもらえれば成果が出るんじゃないの?
理想的な状態なら、そうかもしれません。人材も、資金も、事業アイディアも、時間も理想的な状態なら…。でも、スタートアップ企業って理想的な状態ですか?
違いますよね、資本力もなく、正直ギリギリの状態、理想とは程遠い状態だと思います。
そして人材も、残念ながら、あなたのもとに集まってくる人はGoogleやfacebookで働く人と優秀さが天と地ほどの差があります。
成果が出せる理由は、自由に働いてもらうことではありません。会社の事業がちゃんと回っており、利益を出す「仕事をしている」からです。
働き方というのは仕事の方法の一つでしかありませんので、「自由があれば成果が出る」と言うのは、だいたいサボりたい人の口実にしかなりません。
優良大企業の「働き方のルール」は真似できても、「ビジネスモデル」は真似できない
ご存知の通り、Googleやfacebookはとてもとても儲かるビジネスモデルが既にあります。なので、働き方のルールに多少リスクや無駄があっても問題なく吸収できるほどの資本力があります。そして、外資系企業ですので人材の扱い方や働く側の考え方、文化も違います。
これほどの資本力もビジネスモデルも、まだスタートアップ企業であるあなたにはありません。なけなしの自己資本や、やっとの思いで借り入れた融資で必死に生き抜こうとしているはずです。
余裕のある大資本をルールをマネしたくなりますが、ビジネスモデルや事業は簡単に真似できませんよね?取る必要のないリスクまで抱え込むのはまだ早すぎます。
日本型の労務管理は残念な最適解
フレックスタイム制にはしたものの?
理想的なフレックスタイム制にしたとしましょう。自由な社風でのびのびと仕事してもらい、高い成果をあげてもらえるはずだったあなたは、こう悩みます。
「どうして、この理想的な会社で成果が出ないんだ。どうして、できているハズの作業すら終わっていないんだ。こんなんじゃ、あっという間に資金も無くなってしまう!」
では、どんな制度の会社にするのが最適なのでしょう?
残念な最適解でも、まずは日本型の労務管理を選ぶメリットはある
- Googleやfacebookで働く人と、あなたのもとに集まってくる人は優秀さが天と地ほどの差がある
- 多少リスクや無駄があっても問題なく吸収できるほどの資本力は、あなたにはない
この現状では、日本型の労務管理が最適解となります。
雇われていた時の窮屈さが思い出されて、嫌な思いをするかもしれません。しかし、自分の会社の生き残りのためには”自分の理想は横に置いておく”覚悟をする必要があります。
毎朝出勤してデスクで仕事する、労働時間は管理される、ノルマも課されるといった、大多数の会社が実践している日本型の労務管理は最適解であるという現実をまず知るべきです。
フレックスタイム制は「信頼」逆に言えば「労務管理放棄」
また、フレックスタイム制は社員には歓迎されがちですが、経営者の管理放棄、責任の丸投げと考えるべきです。良く言えば「信頼」ですが、労務管理をしなくても確実に成果が出せるような信頼できる人材ならいいのですが、そんな人がそうそういないことはわかりますよね。
経営者たるあなたは、会社を維持するためには自分のアウトプットを維持するかたわら、雇った人の管理もしなければなりません。
他人を管理するのは大変ですので、フレックスタイム制ということにして、実態はただの管理の放棄になっているケースもあります。
経験上、フレックスタイム制にすると9割の人間は仕事をしているフリをします。これでは終わる仕事も終わりません。
「自分がこれだけできているだから、その人もできるはずだ」というのは、仕事が大好きで、雇われず独立して会社を経営しているあなたの錯覚です。
社員に成果を出す義務は無い、ただし給料を払う義務は発生する
フレックスタイム制にするなら、ノー成果ノーペイと言った業務委託契約に準じたレベルでの目標と成果管理が必要です。
しかし、法律上、フレックスタイム制であっても、労働者側に「成果を出す義務」を課すことは出来ません。ただし、経営者は雇用した人間には必ずルール通りの給与を支払う義務が発生します。
「完全歩合制だ、出来高制だ」と焚きつけても、雇われている人は期待通りには働きません。
そもそも、外注への業務委託契約に準じたレベルで成果に応じて”賃金”を支払いたいのであれば、人を雇うリスクを負わず、外注という形にリスクを転嫁するべきです。
フレックスタイムを採用したいなら、まず事業をしっかり回すこと
やはり、フレックスタイム制を適用していいのは、十分に利益があり、放っておいても成果を上げてくるような超優秀な人間を(それなりの高給で)採用できる会社だけなのです。
そして、そんなスーパーヒーローのような人はほとんどいませんし、そういう人はだいたいもう独立してます。ましてや、あなたの会社に「雇ってください」とやって来る人には100%いないと断言できます。
ですから、結局あなたが成果や目標を細かく管理する必要があります。
日本型の労務管理のいいところは?
「細かい管理が可能」という点以外にも日本型の労務管理に優れた点があります。
働いている人の稼働時間を揃えることは、商店街に例えれば定休日や営業時間を揃えることになります。
精肉店と青果店に行きたいのに、同時に営業していないのは不便ですよね。
”同時に営業している”、これだけで不便が解消できるのです。
これは会社においても同様で、同じ時間に同じオフィスで営業中ってだけで便利なことが結構あります。
- なにせ、スタートアップ企業はマンパワーがない…。
- よって、足並みを揃える必要がある。トラブルがあっても、すぐ報告ができ、連絡がついて、相談ができる体制にする必要がある。そうすれば、最小の損失で路線変更ができ、リカバリーが可能!
- 時間のロスがチャンスのロス、すなわちお金のロスになる。借りたお金をみすみす捨てる羽目になる。
- 余計な不便や衝突がないので、より効率よく協働体制を築くことができる!
管理の最適解は日本型の労務管理である
フレックスタイム制がプラスになるのは、あなたの目の届かない場所でも期待以上のパフォーマンスをあげてくれる人です。
言葉は悪いですが、このレベルの人はあなたの会社に「雇ってください」とやってくる人ではありません。
結局のところ、オフィスに呼びつけて時間内はしっかり労働し、成果を管理する環境を作らないと、あなたの大切な自己資金や、必ず返さないといけない銀行からの融資資金がどんどん溶けて無駄に失われていくだけなのです。
やはりスタートアップ企業においては、管理の最適解は日本型の労務管理となります。
「いつかは理想を実現しよう!」でいいじゃない?
人を雇う、雇用を創出するというのは、志の高いことです。その人の人生の多大な部分を背負うことです。
完全フレックスタイム制で、のびのびと仕事をするエクセレント・カンパニーを夢見るのも素敵ですが(このブログをご覧の経営者の方々からそのような会社が生まれたらワクワクしますが)、夢だけでは現実を生き残れません。
人を雇って、その人の食い扶持まで責任をもって稼いでいこう!と思うのであれば、余裕のないスタートアップ企業の経営者としては、心を鬼にして日本型の労務管理を墨守していくべきです。
まずは、窮屈な労務管理でも生き残り、余裕がでてきたら自由度を上げればいいだけです。当初から野放図な状態では、危機を感じてから引き締めようとしてもうまく行きません。
とらないで済むリスクを取る必要はないのです。
まとめ
フレックスタイムがダメなのではなく、フレックスタイム制度を採用しても成果を出してくれる優秀な人材を雇うことがとても難しい
小さい会社は、まず仕事、成果、目標の管理をきちんとしましょう。
それでちゃんと利益や事業が成長に乗ってから、優秀な人に限り、労務を最適化しましょう。フレックスにするのはそれからでも遅くありません。